傷痕 (文春文庫)
先日、突然外で時間を持て余してしまったことがあって、
スマホの充電もそんなになくて、
それならばと、本を一冊買ってカフェで読むことにしました。
それがこの本、桜庭一樹さんの『傷跡』です。
桜庭さんの作品でよく描かれる、謎めいた少女。
今回は、キング・オブ・ポップスターの娘。
その少女の名前が、”傷跡”。
世界的な人気を誇るポップスターが、突然、死を迎える。
騒然とする世界の中で、彼と関わった多くの人々は、何を思い、何をするのか。
章ごとに視点を変えながら、物語は進みます。
娘から見た父。
姉から見た弟。
ジャーナリストから見たポップスター。
ファンから見たポップスター。
それぞれから語られる彼。
どう見てもフィクションのお話なのに、
登場人物の感情は生々しく、時には眉をひそめたくなるような事象も丁寧に綴られていて、どことなく現実的で、
それでいて、それぞれの語り口から詩的にも感じられる世界観は、
頭の中に情景が広がり、映画を見ているような感覚を覚えます。
読了後に、結局あれはどういうことなんだろうかと、明確にされなかった謎に考えを巡らせるのも、桜庭さんの作品の好きなところ。
読後感が心地よいのです。
少女の視点よりも、周りの大人たちの視点で語られることの方が多かったので、私自身がもう少し歳を重ねてから読むと、より共感できたりするのかななんて思いました。
本棚に大事にしまっておいて、またいつか、この本を読みたいです。